高山峯夫のホームページ
免震構造に関する研究 建築構造物の振動問題に関する研究 4menshin.net
トップページ
最新情報
略歴
記事
入門編
実践編
リンク集
お問い合わせ
記事
設計者のための免震入門(7) ダンパーの役割と減衰特性
 
 
共振曲線による減衰性能の評価
 免震構造は、図5に示すような上部構造剛体とした1質点系振動モデルで表現できる。アイソレータが弾性で、ダンパーが速度に比例する粘性減衰であった場合の運動方程式は次式となる。
図5:免震建物の振動モデル


(4)
ここで、m:建物総質量、
c:ダンパーの減衰係数、
k:アイソレータの水平剛性、
γ0 :地動の変位
ダンパーの減衰係数は、減衰定数hを用いて
(5)
と表現される。アイソレータの水平剛性は、円振動数 を用いて
(6)
となる。
 図6は図5のモデルに正弦波地動が入力した場合の絶対加速度応答倍率(地動の加速度に対する上部構造の最大加速度の比率)を減衰定数h別に示している(共振曲線という)。(4)式右辺の正弦波地動の振幅を α0 、振動数をpとして、 y0 = α0 ・cos ptとおいて求めた結果である。図6の横軸は免震建物の円振動数 w0と正弦波地動の振動数pの比率で表現されている。
図6:線形減衰系の共振曲線


 同図から P / w0 =1 の時(共振領域)、応答が最も大きくなり、そこから離れるに従って応答は小さくなる。 P / w0 > 1の領域、すなわち免震周期が地動の周期よりも長い領域では応答倍率は1以下となり、免震効果が表れている。共振領域では減衰定数が0の時は応答が無限大となっているものの、減衰定数を大きくすることで応答を小さく抑えることが可能である。ただし、同図の結果は、定常応答(時間が十分経過した後の応答が一定になった状体)の場合であり、実際の応答は正弦波のような地動がどれくらいの時間継続するのかによる。図7には、共振時の応答波形を示す。同図から分かるように、定常状態に達するには、それなりの時間が必要であることがわかる。減衰定数が0の時は時間の経過とともの振幅が増大することになり、無限の時間が経過すれば応答も無限になるということを図6は示していることになる。
図7:共振時応答の時間変化(T0=1sec)


 免震層が図8に示すようなバイリニア型の復元力特性を持つ場合の共振曲線はどうなるであろうか。バイリニア型復元力特性は、弾性時の円振動数は w0 (= 2π / T0 )、降伏後の剛性に対応した円振動数 wƒ (= 2π / Tƒ )、及び降伏せん断力係数 αs で規定される。
図8:免震層の復元力モデル

 Caughey1)は最小二乗法を用いて等価剛性と等価粘性減衰定数を評価する方法を提案している。これはバイリニア型復元力特性を持つ系と等価線形系の定常応答解の誤差が最小となるように等価剛性と等価減衰を決定する方法である。図9には、Caugheyの方法から求めたh=0の時の共振曲線(応答塑性率 )を示す。図中 ky は、次式で示されるように降伏レベルと入力加速度の関係を示している。
図9:バイリニア型振動系の共振曲線


(7)
ここで、 α0 :入力加速度、 αs :降伏せん断力係数、g:重力加速度
入力レベルが大きくなるに従い、共振点が変化し、降伏後剛性に対応した周期に移ることが分かる。この時の周期 Tƒ (= 2π / wƒ )は、初期剛性に対応した周期を T0 、降伏後剛性と初期剛性の比率を γ とすれば、
,ここで、 (7)
と得られる。
 図9で明らかなように最大応答は、入力レベルが小さい領域ではバイリニア型履歴曲線の初期剛性に対応した周期 T0 で増幅し、入力レベルが大きくなると降伏後剛性に対応した周期 Tƒ の位置で増幅する。
 免震構造の応答において上部構造の振動が無視できる場合には図9と同様なことが言えることになる。免震構造の振動特性で問題にされる項目として、地震波の長周期成分による共振現象がある。共振状態で問題となるのは応答変形が大きくなることであり、このとき周期は Tƒ に収斂する。従って、免震構造の周期(固有値)として変位振幅に依存しない Tƒ (または接線剛性)を用いるのが妥当であると言える。このことは、等価剛性での剛性評価ではなく、アイソレータだけの剛性(降伏後剛性)を求めることが重要であることを示唆している。この様な場合でも振動時間は有限であり、想定される定常的な波形の振幅の大きさと継続時間(波数)に対して、応答が設計値内になるように適切にダンパーを設計することが重要となる。





BACK 1 / 2 / 3 / 4 / 5
NEXT



copyright 2004 (c) Fukuoka Univarsary Takayama Mineo All right reserved.