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設計者のための免震入門(6) 積層ゴムの実験による性能評価
 
 
面圧依存性
 面圧依存性とは、アイソレータに作用する軸力が変化した時に性能がどれくらい変化するかを調べる試験である。この他、ゴム材料がひずみ速度依存性を持つ場合には加振の速度が性能に与える影響を評価する速度依存性試験、加振変位の大きさによる影響を評価するひずみ依存性試験、環境温度による影響を評価する試験なども必要に応じて実施することになる。
 図9には天然ゴム系積層ゴム(500-3.75×26試験体)の水平剛性と面圧の関係10)を示す。試験体はほぼ同じ形状の積層ゴムで、左側は鋼板露出型、右側は鋼板埋込型の場合である。鋼板露出型とは、被覆ゴムが一体成型され中間鋼板が露出していない形状で、鋼板露出型は被覆ゴム後巻き型で中間鋼板径がゴム径よりも少し大きな形状となっている。実験による水平剛性はせん断変形率-100%と+100%の点を結んだ剛性を3サイクル目の往路と復路で求め、これを平均して求めた。図中の γ はせん断変形量をゴム総厚で除したせん断変形率であり、加振振幅の最大値を示している。図中には、水平剛性 KH の理論式も示されている。なお、理論値の算出に際しては、 G =4.5kg/cm2 [0.44MPa]、 Eb =20t/cm2 [1.96GPa]、 κ =0.85、 Tr =9.75cm、 Ts =8.0cm (0.32cm×25層)を用いた。なお、体積弾性率 Eb を1/2にした場合でも、理論値には数%程度の差異が見られるだけである。両試験体とも面圧が大きくなるに従い、水平剛性は低下する傾向を示している。しかし、鋼板露出型の実験値は理論式と良い対応を示しているものの、鋼板埋込型の水平剛性の低下率は理論値や露出型の実験結果に比べ非常に大きくなっている。この原因としては、中間鋼板を埋め込んだ影響、中間鋼板の平行度、ゴム材料の高い圧力下での特性の変化などが考えられるものの、今後の研究に待つところが大きい。
図9 天然ゴム系積層ゴムの水平剛性の面圧依存性
 水平剛性の面圧依存性が大きい場合、地震時の免震建物の応答予測に悪い影響を与えるため、面圧依存性の評価が厳密に行うべきである。
 図10と図11に鉛プラグ挿入型積層ゴムの履歴特性と水平剛性の面圧依存性の一例を示す。鉛プラグ型積層ゴムの形状は、直径700mm、1次形状係数が35、2次形状係数が5.1で鉛プラグの直径は120mm(積層ゴム直径の1/6)である。面圧が100kg/cm2の履歴曲線はバイリニア型の履歴特性を示しているものの、面圧が300kg/cm2の場合、せん断変形率が200%を超えたところから水平荷重が低下し、座屈(履歴曲線の接線剛性が負となる)するようになる。また、この時の履歴曲線において変形が0の時の勾配も負となっている。図11の水平剛性の面圧依存性には理論式も示されているが、これは実験結果の回帰曲線である。この回帰曲線から、この試験体の座屈応力度は約420kg/cm2程度であることがわかる。しかし、本試験体の形状に基づいて座屈評価式から求められる座屈応力度は約700kg/cm2となり、実験結果と一致しない。これは、中心にある鉛プラグの影響が表れたものと考えられ、鉛プラグ型積層ゴムの座屈応力度の評価にあたっては座屈評価式の適用には注意が必要である。
図10 鉛プラグ挿入型積層ゴムの履歴特性の一例
 図12と図13には高減衰ゴム系積層ゴムの履歴曲線と面圧依存性の一例を示す。本試験体の形状は、直径が900mm、1次形状係数が23、2次形状係数が5.6で、中心には直径の1/6の空孔がある。初期載荷の履歴曲線はせん断ひずみの大きさにより異なった形状となるものの、2回目の載荷では同じ履歴曲線を描くようになる。しばらくすれば、初期の履歴曲線に戻る傾向にあり、設計ではこれらの平均値が設計に用いられている(メーカーによってはこの様な特性を示さない製品もあるようだが)。面圧が300kg/cm2になると履歴曲線は完全に逆S字型になっており、全体的に座屈していることが明瞭である。図13の水平剛性の面圧依存性では、面圧300kg/cm2で水平剛性がほぼ0となり、座屈していることが認められる。水平剛性の算出にあたって、割線剛性(履歴曲線の原点と最大荷重点を結んだ剛性)が用いられることがあるが、この方法では図12の履歴曲線から座屈荷重を的確に評価できないのは明確である。図13中の理論曲線も図11と同じく回帰曲線である。座屈評価式による座屈応力度は約510kg/cm2であり、実験結果に比べ1.7倍大きい。これは高減衰性を発揮するように配合された添加物による塑性あるいは粘性による影響であろう。
図12 高減衰ゴム系積層ゴムの履歴特性の一例
図13 高減衰ゴム系積層ゴムの面圧依存性の例
 面圧依存性は地震時の転倒モーメントや鉛直地震動による軸力変動下での積層ゴムの性能を把握する重要な試験項目である。性能の評価に当たっては、実際に使用する製品と同じ仕様のものを用いた試験の実施が求められる。





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