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設計者のための免震入門(9)免震建物の地震応答特性
 
多質点系モデルでの応答検証 
 12質点系モデルを用いて上部構造の応答(層せん断力係数)について検討する。上部構造は最下層を免震層とする12質点モデルで、最下層の質点重量は1500tonで他の重量は1000tonで一定とした。上部構造は弾性で、剛性分布は最下層を1.0、最上層を0.5とする台形分布とした。非免震時の1次固有周期(T1)は1.0secと0.5secの2通りを設定した。上部構造の粘性減衰は2%とした。免震層の復元力特性は1質点系モデルと同様とし、周期 は2.5secと4.0secのみを用いた。降伏変位は2.0cmとした。入力波にはEL CENTRO (NS) 50kineと100kine、BCJ-L2波の0.8倍と1.6倍を用い、それぞれGsが1.0と2.025時の告示式の結果と比較する。
 なお、(8)式の係数 γ は応答計算では免震部材のばらつきなどは考慮していないため、 γ =1とする。告示式では収束値を用いている。
 図7にT1=1sec、Gs=1の場合の層せん断力係数の比較を示す。白いマークが告示式、黒が応答解析である。BCJ-L2入力では αs が3%の時は良い対応を示すが、EL CENTROの時には下層部のせん断力係数は対応するものの上層部のせん断力係数の差が大きくなる。
 同様に、図8にはGs=2.025の結果を示す。BCJ-L2では αs が5%以下では告示式が非常に大きくなるが、EL CENTROではGs=1の場合と変わらない。いずれにしても αs が10%以上の場合には告示式と応答結果はほとんど対応しない。
 図9は上部構造の周期(T1)を0.5secと短くした場合の結果である。上部構造が硬くなることで、告示式の予測精度は改善されている。
 これは、上部構造の応答予測に際しては上部構造と免震層との周期比(あるいは剛性比)が関係しているためで、(8)式ではその効果を表現できていない。免震構造設計指針5)では(10)式に示すように上部構造の剛性比を考慮する係数 を導入し上部構造の応答層せん断力係数の補正を行っている。
(10)
ここで、は最適降伏せん断力係数( に相当)、 αƒ , αs はアイソレータとダンパーのせん断力係数。(10)式中の係数 の検証範囲は αs <0.06であり、(8)式へ無条件に適用できるかどうかは検討が必要であるが、本解析モデルへ適用したとすれば αi =1.4〜2.8程度であり応答結果により近づくと思われる。
 図10は応答解析による免震層の最大変位と告示式による基準変位の比較である。ダンパーの αs が小さい、即ち応答変位が大きい時には告示式による変位は過大評価であり、 αs が大きくなると過小評価になる傾向を示す。特に、Gs=2.025の場合にはその傾向が顕著となる。告示式による応答予測精度は±50%以上のばらつきがある。


まとめ
 今回は免震建築物の告示を紹介し、告示の構造計算方法の問題点、応答予測精度について考察した。告示の構造計算方法は簡単であるものの、本解析結果からは適用可能な範囲は限られたケースであり、広範囲に適用するには注意がいる。告示式の応答結果(免震層変位や上部構造の応答せん断力)は、地震応答解析や文献5)などに示されているエネルギー法により検証することが望まれる。
 告示の適用範囲は明確にされておらず、ダンパー量を過度に増やせば免震性能を発揮できない建物の設計も可能となっている。応答の予測精度や告示の適用範囲については更なる検討が必要であろう。免震部材の性能評価に関しても不十分な内容であり、基準値の背景にある実験データなどの開示が求められる。
 免震告示に基づく検証法を用いる場合には、部材性能と応答結果について十分慎重に対応する必要があるといえる。
参考文献
1) 国土交通省住宅局指導課など編「免震建築物の技術規準解説及び計算例とその解説」2001.5
2) 建築研究所監修「改正建築基準法の免震関係規定の技術的背景」2001.8
3) 日本免震構造協会編「免震部材標準品リスト2001」2001.9
4) 日本建築学会「改正建築基準法の地震動規定を考える」第29回地盤震動シンポジウム資料、2001.10
5) 日本建築学会「免震構造設計指針」2001





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