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設計者のための免震入門(1) 地震対策としての免震構法
免震構法の効果
 阪神大震災の1年前、1994年1月17日午前4時31分、アメリカのロサンゼルス北西部でノースリッジ地震が発生した。
 オリーブ・ビュー病院は、十字型に配置された耐震壁をもつ6階建の病院で、この地震では基礎部での応答加速度0.82G(Gは加速度の単位で980galに相当する)に対し、屋上階において2.31Gという驚異的な応答加速度を記録した。耐震壁にせん断亀裂が発生した程度で躯体の倒壊は免れたが、スプリンクラー配管破断による放水によって全階水浸しとなった。又、医療機器や家具類が転倒し、病院機能を喪失した。大量のカルテを保存している部屋では、幸いにも水による被害はなかったものの、天井の吊りボルト及び蛍光灯の取付金具がはずれた為、天井仕上材・蛍光灯が落下した。地震発生同日19時までに入院患者約300名全員の移送を完了させ、2日後の1月19日、41時間後に業務を一部再開している。災害時こそ、その活躍が期待される病院において、残念なことに入院患者は他の病院に移される事態となってしまったのである。
 激震地に於いて、建物や道路が多大な被害を出したのに対して、免震構法を採用したUSC大学病院だけが、何ら被害を受けていない。この病院は地上7階+地下1階(延べ床面積33000m2)の鉄骨造で、不整形な平面形状をしているにもかかわらず、免震性能が発揮されたお陰で無傷であった。基礎部での最大加速度0.37Gに対して、1〜7階の応答加速度は0.10〜0.14Gと、約1/3程度の低減が確認された。病院内売店の売り子の話では、店内に陳列してあった高価なクリスタルガラスも倒れなかったということである。又、地震発生の4時31分、この時USC大学病院では緊急脳外科手術が行われようとしていた。まさにメスを入れようとした時、地震の揺れが感知されたが、建物の緩やかな揺れがおさまるのを20〜30秒間待っただけで、手術は滞りなく終了した。
 一方、阪神・淡路大震災では、1981年以前の旧基準時代の建物に被害が多く、それ以降の新耐震時代(今でもこの当時に改正された設計法を"新"耐震と称することが多い)の建物の被害は少なく、新耐震設計法の有効性が示されたとも言われている。しかし、ピロティ構造の被害、鉄骨部材の脆性破断・接合部の亀裂、及び被害建物の修復(レトロフィット)など耐震レベルの妥当性や被害レベルの想定などについての新たな問題も浮かび上がってきている。
 この地震で神戸市北区に建設されていた2棟の免震建物では地震記録が観測されていた。その内の1棟は郵政省西日本貯金事務計算センター(6階建て、延べ床面積約47000m2)であり、基礎部0.3Gに対して、上部構造の応答は0.05G〜0.10Gとなり、応答が1/3以下に低減された。免震層の変形能力40cm以上に対して、今回の地震での最大変形は10数cm程度とみられている。地震時には建物内に計算機などは未だ設置されていなかったが、建物内部には全く損傷が見られず、免震効果が確認された。
 2003年十勝沖地震や2004年新潟中越地震においても、免震建物の地震時の挙動が計測された。いずれも設計で想定された性能を発揮したといわれている。
 これらの地震を契機として免震構造を採用した建物が増加するとともに、用途も病院、超高層住宅、戸建住宅などあらゆる建物に適用範囲が広がることが期待される。これまでに我が国では1200棟以上の免震建築が建設されてきている。ただ、このような動きが一過性でなく、免震建築の有効性や性能を真に理解された上での動きであることを願うとともに、今後も免震構造の性能を向上する努力を怠らないようにしたい。
参考文献
1) 多田英之:免震構造の設計に関して思う、建築防災、1988年9月号
2) 多田英之、高山峯夫:地震対策としての免震構法、福岡大学工学集報、第57号、平成8年9月
3) 高山峯夫、多田英之:Anatomy of Seismic Isolator、福岡大学工学集報、第50号、平成5年3月
4) 森田慶子、多田英之他:病院・学校などの公共施設への免震構造の適用について、福岡大学工学集報、第54号、平成7年3月
5) 多田英之:建築サイドから見た免震ゴム、日本ゴム協会誌、第68巻、第4号、1995年





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